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柔道整復師で問題となる「白紙委任」は本当に問題ないのか?

柔道整復師で問題となる「白紙委任」は本当に問題ないのか?

制度の再確認が重要です

まず、白紙委任を解説する前に柔道整復師の療養費の仕組みをおさらいしてきましょう。

接骨院、整骨院では健康保険を使った施術が一部認められていますが、現物給付(療養の給付)ではなく現金給付(療養費の支給)での取扱いとなり、現金給付の場合、患者本人が全額を窓口で支払い、後日、保険者に申請して所定の額が払い戻されるのが原則ですが、受領委任制度により一般の医療機関(病院など)と同じように、健康保険証の提示と一部負担金で施術を受けることができるようになっています。

患者が、この受療委任制度を利用するには、柔道整復師が作成した療養費支給申請書の委任状欄に署名することが必要となります。

この署名を行う際に、療養費支給申請書に傷病名や施術日数など何ら記載のない状態のことを「白紙委任」と呼ばれています。

代表的な保険者のWebサイトには、以下のような注意書きがあります。

-前略-
療養費支給申請書は、受領者が柔道整復師に委任をし、本人に代わって治療費を保険者に請求し支払いを受けるために必要な書類です。委任欄に署名する場合は、傷病名・日数・金額をよく確認し署名しましょう。白紙の用紙にサインをしたり、印鑑を渡してしまうのは、間違いにつながる恐れがありますので注意してください。

上記はまだ丁寧なほうです。

保険者によっては以下のような注意書きもあります。

-前略-
委任するとはいえ、「療養費支給申請書」には自署・捺印を必ずしなくてはなりません。これらを求められた際は、負傷原因や負傷部位など記載事項に間違いがないか必ずご確認ください(白紙委任には応じないでください)。

「白紙委任には応じるな」という感情が伝わってくる内容ですね。

では、現状この白紙委任は違法行為なのでしょうか?

柔道整復師としては一安心

参考となる資料として、辻泰弘議員により平成19年10月2日に提出された「柔道整復師による療養費の不正請求問題に関する質問主意書」があります。

-前略-
十 柔道整復師が患者に対して、支給申請書に具体的な記載をする以前に署名を求める、いわゆる「支給申請書の白紙委任」問題について、政府の把握状況を示されたい。また、この白紙委任が不正請求の温床になっていると考えるが、この問題についての政府の具体的な対応方針を示されたい。

柔道整復師による療養費の不正請求問題に関する質問主意書(PDF)

上記質問に対して、当時の福田康夫内閣総理大臣による答弁は以下の通りです。

-前略-
十について
療養費の支給については、患者から施術者への受領委任(保険者と柔道整復師により構成される団体又は柔道整復師との間で契約を締結するとともに、被保険者が療養費の受領を当該契約に係る柔道整復師に委任することをいう。以下同じ。)の制度が認められており、柔道整復師の施術所がその申請書を作成するのが一般的である。当該申請書については、療養費は一か月を単位として請求されるものであり、当月の最後の施術の際に患者が一か月分の施術内容を確認した上で署名を行い、これを作成することが原則であるが、柔道整復師の施術所への来所が患者により一方的に中止される場合があること等から、患者が来所した月の初めに署名を行い、当該申請書を作成する場合もあることは、厚生労働省としても承知している
厚生労働省としては、受領委任の制度については、患者が施術に係る費用の負担を心配することなく、その傷病に対する手当等を迅速に利用することを可能とする趣旨から認めているものであり、今後とも必要な制度と考えている。今後とも、その適切な運用について、関係者に対する周知に努めてまいりたい。

柔道整復師による療養費の不正請求問題に関する答弁書(PDF)

上記内容による見解としては、当月最終来院日に患者による申請書の記載事項の確認を行ってから署名をもらうことが原則としながらも、患者の最終来院日を把握することは困難であるとして、月初来院日に白紙による申請書への署名について承知している(認めざるを得ない)とするものです。

つまり「白紙委任は、即座に違反とはならない」という結論でした。

安心してはいけません。

「受療委任制度」は文字通り患者から委任されるものであるため、詳細な説明を行うことは柔道整復師の責任であることはいうまでもありません。

しかし、一部の接骨院、整骨院では受療委任の仕組みや署名の必要性を患者に説明せず、単に「当院は初めてですか?では保健証を見せて下さい。あと、こちらの用紙にサインをお願いします。」という事務作業を繰り返している実態があります。

保険者としては、受療委任制度の存在すら知らされず患者に署名を求めている行為は問題だとし、柔道整復師の違法行為(水増し請求や架空請求等)の一因になるとして警鐘を鳴らしていると考えられます。

もし患者一人一人に受療委任制度の詳細な説明をし、署名の必要性を明示できていれば白紙委任がここまで大きな問題として取り上げられることはなかったのかもしれません。

現在も、一時期のマスコミ報道により「白紙委任は社会悪」と考えている患者(類似業者?)は少なからず存在しています。

しかし「白紙委任は何ら問題のない行為だ」という柔道整復師側の主張を押し通すだけでは、何の解決案も生まれません。

患者に誤解のないよう署名をいただく仕組みを考え、積極的に取り入れていくことも現場で勤しむ柔道整復師の責任ではないかと思います。

ABOUT ME
樋口 弘明
柔道整復師。関西圏で合計9つの接骨院・整骨院に勤務し、施術のほか新人教育や療養費請求のレセプト処理、Webや紙媒体による広報など柔道整復に係る様々な事業を経験。現在は会社を設立し、業界に役立つ様々な情報やコンテンツを発信、提供する活動を実施している。