今回は、柔道整復師の保険請求(療養費)の算定項目である初険料の基本的な取り扱いと注意点を解説します。
私自身が整骨院勤務で疑問になったこと、療養費の支給基準に基づいて厚生労働省や保健所、業界団体の有識者に確認を取った内容ですので、きっと参考になるはずです。
ポイントだけ知りたい方は【目次】をご覧いただければ要点はつかめるかと思います。
目次
初険料は初回来院時に算定できる
初検料は、柔道整復師が取扱う療養費の算定項目の中でも特に算定頻度の多いものだと思いますが、療養費の支給基準には初検料について下記のような記載があります。
患者が初めて来院し、検査など初回処置を行った際に算定できること。(初回のみ)
療養費の支給基準
つまり、初めて接骨院・整骨院に来院して、柔道整復師も初めて検査など対応した際に算定できる項目になります。そのため初回(1回目)だけ算定できるものとなります。2回目以降の来院には算定することができません。
負傷の程度に関わらず、初めての患者さんに対するカウンセリング(医療面接)などは時間と労力がかかるものです。その行為に対する算定項目と理解すればわかりやすいと思います。
初険料の算定料金について
初検料の算定料金は1,460円となります。(2019年6月現在)
初検料は過去の療養費改定によって複数回変更されており、これまでの経緯は下記のようになっています。
改定時期 | 改定内容 | 料金 |
---|---|---|
平成28年 | 初検料の引き上げ | 1,450円→1,460円 |
平成26年 | 初検料の引き上げ | 1,335円→1,450円 |
平成25年 | 初検料の引き上げ | 1,240円→1,335円 |
平成18年 | 初検料の引き下げ | 1,270円→1,240円 |
最新の改定で初険料は引き上げられていますが、厚生労働省は「これまでの適正化の流れを踏まえつつ、適正な請求を行う施術者が正当に評価されるよう、整復料等にウエイトを置いた改定を行う。」との見解を示しております。
条件によって算定できない時がある
初検料は、条件によって算定できる場合とできない場合があります。そこで、療養費の算定基準の留意事項に記載してある内容を使って5つの項目を解説します。内容は下記の通りです。
(1)患者の負傷が治癒した後、同一月内に新たに発生した負傷に対し施術を行った場合の初検料は算定できること。
(2)現在、施術継続中に新規負傷が発生した場合は、それらの負傷に係る初検料は合わせて一回とするので、新規負傷の初検料は算定できないこと。
(3)同一の施術所において、同一の患者に2部位以上の負傷により同時に初検を行った場合であっても、初検料は1回の算定となること。
(4)同一の施術所において、同一の患者に初検を行う施術者が複数であっても、初検料は1回の算定となること。
(5)患者が任意に施術を中止し、1ヶ月以上経過した後、再び同じ施術所で施術を受けた場合には、その施術が同じ負傷に対するものであっても、当該施術は初検として取り扱うことができること。
初険料の算定条件1
(1)患者の負傷が治癒した後、同一月内に新たに発生した負傷に対し施術を行った場合の初検料は算定できること。
書き方がややこしいですが、新規負傷時に継続中の負傷が一つもなければ初検料を算定できるということですね。
(2)現在、施術継続中に新規負傷が発生した場合は、それらの負傷に係る初検料は合わせて一回とするので、新規負傷の初検料は算定できないこと。
この場合は、何がしらの負傷を継続している最中に新規負傷してきたということですので、追加で初検料を算定することはできないということです。
(3)同一の施術所において、同一の患者に2部位以上の負傷により同時に初検を行った場合であっても、初検料は1回の算定となること。
2部位以上ですので、3部位でも4部位でも同時に初検を行った場合は1つにまとめて算定します。
(4)同一の施術所において、同一の患者に初検を行う施術者が複数であっても、初検料は1回の算定となること。
比較的大きい接骨院・整骨院では、柔道整復師が複数勤務しているかと思います。上記の解説は、そのような院で術者が交代で患者を施術している場合に該当しますね。
ちなみに、上記では負傷が継続して複数の術者が新規負傷を初検した例ですが、前回の負傷がすべて施術完了(治癒)していた場合には、初検料を算定することができます。
つまり、部位数や関与した施術者数ではなく負傷が継続しているのかどうかで判断するようにすればイメージしやすいかと思います。
(5)患者が任意に施術を中止し、1ヶ月以上経過した後、再び同じ施術所で施術を受けた場合には、その施術が同じ負傷に対するものであっても、当該施術は初検として取り扱うことができること。
※1ヶ月の期間の計算は暦月によること。
(2月10日~3月9日、7月1日~7月31日、9月15日~10月14日など)
注目すべき点は「1ヶ月以上期間が経って、同じ負傷をまだ施術する場合」ということです。
本来、同負傷に初検料を2回算定することなど考えられません。ですが「1ヶ月以上も期間が経てば、同じ負傷でも初検が必要だろう」という配慮で通達されたものと考えられます。
ただし、全くの初検という取り扱いではありませんから、いわゆる「施療料」などの算定はできませんので注意して下さい。
ところで「暦月」ってなんでしょうね?僕はよく知らなかったので、調べてみました。
算定日の計算は暦月を基準にする
暦月とは、民法によって定められたものです。
民法第百四十三条
週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
② 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
読み方は「れきげつ」と読むそうです。僕は「こよみづき」なんて読んでましたが・・・。
暦月には「起算日に応当する日の前日に満了する」とありますので、療養費に当てはめると起算日を最終通院日として読み替えれば理解しやすいかと思います。
初険料の算定条件2
先ほどの算定条件以外で、理解しておくべき事例があります。それは健康保険の保険者異動と来院時に持っていない場合の事例です。
(1)保険者異動の場合
現在通院中の患者さんが、結婚や仕事などによって今まで加入していた保険者から新しい保険者へ変わるということがあります。
国民健康保険 → 全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ) など
この場合、今までの保険者から新しい保険者へ患者さんの負傷内容を引き継ぐため、初検料を算定することはできません。
多くの場合は、レセプトコンピューター(以下、レセコン)に保険者異動に関する必要事項を入力することによって負傷内容が自動的に引き継がれるため、特に問題はないかと思います。
しかし、レセコンの機能によっては初検料を再度算定してしまう可能性もありますので注意して下さい。
(2)自費施術→保険施術の場合
先ほどの事例は保険者間でしたが、初検が自費施術で途中から健康保険に切り替えて施術を継続するという場合もあります。
自費 → 健康保険 理由(保険料を滞納してて持っていない) など
この場合も、初検時に行う処置は初回の自費施術に含むと考え、健康保険は後療の施術からの算定扱いとなります。
つまり、このケースも初検料を算定することはできません。
保険証が確認できるまでの例外処置
なお、自費施術→保険施術の取り扱いについて特別なケースがあります。
-前略-
ただし、緊急やむを得ない事由によって被保険者証を提出することができない患者であって、療養費を受領する資格が明らかなものについてはこの限りではないが、この場合には、その事由がなくなった後、遅延なく被保険者証を確認すること。
療養費の支給基準 受領委任の取扱規程 第3章 保険施術の取扱い(受給資格の確認等)15より
上記については、健康保険で初検まで遡って請求するので初検料を算定します。
つまり「自費施術はなかったことになる。」ということですね。
ですが、本当に健康保険に加入しているのかは保険証を確認するまで分かりませんよね?
初回から「保険証は自宅にある。あとで絶対持ってくるから!」なんて言う患者さんもいます。
言うままに一部負担金のみを請求しておくと、ある日突然来院しなくなって連絡が取れず療養費を請求できないということも考えられます。
ですので、担保として全額負担金(10割分)をお預かりしておき、保険証が確認できしだい一部負担金以外の金額を返金するという方法を取る場合があります。
よく質問される算定条件
その他、初検料でお問い合わせをいただく内容をご紹介します。知っておくと役立つかと思いますのでぜひご覧ください。
Q1.午前中に患者が来院し継続中の負傷が全て治癒しました。しかし、その日の午後に新たに負傷して来院した場合の初検料は算定できますか?
この場合、初検料の算定は可能と確認しております。
しかし、単に請求しては保険者に誤解を与える可能性があります。ですので、療養費申請書の摘要欄に前負傷の治癒とした時間帯と、新たに負傷した時間帯がわかるように記載する必要があります。
また、レセコンによっては午前と午後の区別ができず、初検料を算定できない仕様となっている場合があります。
その場合は、印刷ではなく手書きで申請書を作成する必要があるでしょう。
Q2.前月しばらく通院がなかった患者が、別の部位を負傷して来院してきました。しかし、前負傷は通院のない間に治癒していました。この場合、最終通院日より1ヶ月以内でも初検料の算定は可能なのか。
1ヶ月以内に新たに負傷来院した場合、前負傷が治癒していることが確認できれば、 初検料の算定は可能です。
その場合、施術録と申請書の摘要欄に前月中止などで算定したものが治癒していることを確認したので初検料を算定した旨を記載してください。
Q3.無病の場合には初検料が算定できるのか?
無病の取り扱いについては「患者が異和を訴え施術を求めた場合で、初検の結果何ら負傷と認むべき徴候のない場合は、初検料のみ算定できること」としています。
ですので、初検料のみを算定することができます。
Q4.その他、初検料で気をつけることはないか?
初検料に限ったことではないのですが、いわゆる基本の取り扱いと違った変則的な内容を算定する場合は、保険者に前もって理由を示すよう心がけて下さい。
保険者が何らかの疑義を持つと、後にトラブルを生む可能性もあります。
ちょっとしたことでも、療養費申請書に詳しく記載して伝える・・・これくらいがちょうどいいかもしれませんね。
※解説内容は、加盟されている業界団体によって見解が異なる場合がありますので、ご了承下さい。
この書籍は読んでおくべきです
今回の引用でもご紹介している【療養費の支給基準】という書籍は、健康保険で施術を実施している接骨院・整骨院にとって必読書ですので、まだお持ちでない場合はぜひ購入をお薦めいたします。
一般の書店にはなかなか販売していませんので、amazonや楽天ブックスでご確認ください。
さいごに
今回は、初検料の基本的な取り扱いと注意点について解説いたしました。
ぜひあなたの接骨院・整骨院経営にお役立てください。